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2008年4月17日 (木)

「始まりのエピローグ」・8

どこまでも反対するって言うなら、こっちにも切り札があるんだけど、もう出しちゃっていいかな? ねえ、エイミィ」

「あー、使っちゃうんですか、あれ。私としてはもうちょっと寝かして楽しみたかったんですけど」

 肩をすくめて、エイミィはいくつかのキーをたたいた。

「――切り札?」

 宙に浮かぶホロディスプレイに、クロノは胡乱げな視線を向けた。そこに表示されているのは、厳重に暗号化され、ロックされたファイルの情報のみ。

「これ、どこかに仕掛けたまま忘れられてた監視カメラの映像記録なんだよね。たまたま見つけたんだけど、すごいのが映ってて」
 意味ありげに、エイミィが説明する。明らかに忘れられていたわけでもなければ、たまたま見つけられたものではない。そう相手に確信させるための口調。
 さーっと、クロノの顔から血の気が引いた。

「その、日付……」

「ああ、うん。まえクロノ君が休暇でここに帰ってきたときの奴ね。私としては消してもよかったんだけどお~」
 にやにやとエイミィはいやらしい笑みを浮かべる。
「だって、もったいないじゃない。息子と娘の成長記録なんだもの」
 にこやかに、リンディは笑ってみせる。けれど、当人にとってはもちろん笑い事ではないわけで。
「かかかかかっ、母さん!?」
 誰もが今まで見たこともないくらいの勢いで、クロノは動転していた。
「いやー、ちょっと成長しすぎじゃないですかねえ。そのあたりどうですかお母さん」
「そうねー。いくらなんでもキッチンではだ――」
「まままままま待ったあ!」

 もはや悲鳴。

「きょ、脅迫するつもりですか!? 僕はともかく、フェイトの事も――」
「かわいい妹の事も考えるなら、ここで首を縦に振った方がいいと思うけど?」
 母親にあるまじき脅迫に、クロノはついに折れた。

「――わかりました」

 了承の言葉は、まるで処刑を待つ囚人のそれ。選択肢が己に無いと知った絶望がどれだけ深かったか、察せられる。
「ありがとう。話が早くて助かるわ」
 息子の脅迫に成功したリンディは、にこやかに笑うとエイミィにうなずいてみせる。
 ロックされたファイルは、開かれることなくウィンドウの上から姿を消した。

「クロノ、大丈夫?」

 死人のごとき蒼い顔のままソファに沈没した兄をいたわる妹という光景を、あるものはぽかんと、またあるものは微妙に白い目で、けれどおおむね温かい目で見つめていた。

「キッチンではだ? ……なんのことやろう?」
 すっかり話においていかれたはやてが、首を横に捻る。
「は、はやてちゃんは知らなくていいんですよ。まだ」
「なんや、シャマルは何かわかってるんか?」
「え……? いや、なんていうか、まあ」
 問われて、シャマルも焦る。思わずリンディのほうを睨んでしまったのも無理のない話ではある。はやてもなのはも年齢に似合わず大人びた思考をする少女達だが、それでもやはりまだ幼いという事実に間違いはない。だと言うのにこの始末では実に教育に悪い。

「ごめんなさい。この子ったら頑固だから」
「それでも時と場所を選んでくれないと困ります」
 はあ、とため息をついたシャマルは、視線をクロノに移す。そもそもこの遅い成長期を迎えた少年がいけないのだ、と。

「だからせめてあと五年は待った方がいいと言ったのだがな」
「さいてーだ」
 シグナムとヴィータも、クロノの醜態を責める。
「ああ、好きなだけ言ってくれ。僕は最低だよ」
 うなり、それからクロノはようやく身を起こした。

「とにかく、艦長の指示には従おう。この件に関しては、とりあえず僕らの手元で預かる」

「じゃあ……」
 おそるおそる、はやては問う。
「リインは、どっか隠れてたほうがええんやろか?」
「いや。当面管理局から何も言われないように手配しておく。これから先も何とかなるよう、手は尽くす。当分、君たちは自由にしててくれ」

「――本当!?」

 ほとんど反射的な行動だったのだろう。はやては思わずクロノに抱きついていた。脚が動かないとはとても思えないその俊敏な動作に、クロノは躱すこともできず受け止めてしまう。
「ちょっ、危ないじゃないか!」
 もしクロノに身を躱されたりしていたら、はやては思いっきりひっくり返っていただろう。

「ごめんごめん、ちょっとした、お礼や。ありがとう、クロノ君」
「お礼ったってな……」
 思ったより近くにあるはやての顔に少し赤面し、クロノはそっぽを向こうとする。そのそっぽを向こうとした方向にフェイトの顔があったのは、単なる偶然に近いのだろうが。

「どうした?」

 じっと見つめる妹の視線に気付いた彼は、わずかにたじろぐような顔をした。
「……別に」
「なら、なんでにじり寄ってくるんだ?」
「何でもない」
 口ではそう言いながら、フェイトは更にクロノに身を寄せる。只でさえ隣同士に座っていたというのに、今ではもう抱きついているも同然の距離だった。
「やややややめてくれ! もういいかげんにしてくれって!」
「何のことや?」
「クロノは何を言いたいのかな」
 クロノの抗議は、あっさりと拒否されてしまう。

「どう見ますか、艦長。どう見ても両手に花ですが」
「どっちかっていうと修羅場かしら。我が息子ながらモテるわね」

「見てないで助けてくださいよ!」
 はやてを受け止めた姿勢のままなので身動きの取れないクロノが、悲鳴を上げる。
 遅い成長期を迎えたクロノはそろそろ彼女たち幼年組よりは頭一つ以上大きくなっている。が、それでも女の子二人というのはもてあますのだろう。

「執務官殿が困っています、主はやて」
「申し訳ありません、クロノ執務官」

 リインフォースとシグナムの手によってはやての身体が抱き上げられると、クロノはようやくといった様子でため息を吐いた。

「まったく、僕をオモチャにするのはやめてくれ……」
「あはは、ごめんや。フェイトちゃんもな」
 車椅子の上に戻ったはやては、気安い様子で両手を合わせる。クロノに抱きついてしまったのは高ぶった感情のあまりだったのだろうが、そのあとは間違いなくからかう意図があったのだろう。

「とにかく!」

 殊更に強い口調で、クロノは余計な会話を遮る。
「何とかするが、君たちもしばらくはあまり目立つ行動をしないでいてくれ。リインフォースが復活した、その手がかりらしいものがあれば、それも教えてくれると助かるが」
「手がかり、言うても」
 戸惑うはやてに、クロノは小さく苦笑した。
「ああ、気付いたことがあればでいい。それじゃ、方針も決まったことだしあとはそっちで自由にやってくれ」
「クロノ……怒ってるの?」
 立ち上がった彼に、フェイトが不安げな表情を向ける。やり過ぎてしまったのだと思ったのかもしれない。
「気にするな。僕は僕のやるべき事をやりに行くだけだ」
「……うん」
 フェイトのほっとした表情を確認して、改めてクロノは背中を向ける。
「ああ、アタシも手伝うよ」
 今まで人ごとのように、興味なさげな様子で寝転がっていたはずのアルフがむくりと起き上がり、尻尾を振りながらクロノのあとに付き従う。フェイト一人の使い魔であったはずの彼女も、今は立派にハラオウン家の一員として振る舞うようになっている。
「ああ、頼む――というわけで僕は自分の部屋にいる。管理局への報告については僕の方に一任してくれていい」
 ふと思い出した様子で、彼は最後に一言付け加えた。

「――っと。来週末に一泊で慰安旅行をするように手配しておいたから、スケジュールを空けといてくれ。以上だ」

「慰安、旅行?」
 皆が顔を見合わせる。
「全員参加だ。リインフォースも含めて。以上」
「そんな急に言われても……って、スケジュールは空いとるけど、なんで――」
「クロノ君にしては、強引だよね」
 ひらひらと手を振りながら立ち去るクロノの背中に、はやてとなのはが顔を見合わせる。けれど、フェイトはくすりと微笑んだだけだった。

「ありがとう、クロノ」

 そのつぶやきに気付いたのは、同じように微笑んだリンディだけだった。

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コメント

リンディ母さん…エイミィ姉さん…脅迫はもう少しタイミングを考えましょう。なのはとはやての情操教育に悪いですよ。
あとクロノ…反省文提出しなさい(ぇ。

銀光改訂版、部数少な目の上最後なんですか!?ますます買い逃せない。

投稿 大坂者 | 2008年4月17日 (木) 10時54分

キッチンでナニをしたんだねッ!
クロノ・ハラオウン!
はだ……………続きは何なんだ?いったいッ!
……………ま、真逆………いや、それこそ真逆だ。フェイト嬢に限って

私は資料公開を望みます、切に。


あとですね、クロノ君を思い切り殴りたいんですが、はやてちゃんに抱きつかれるとは
フェイト嬢がいながら

投稿 ねこ | 2008年4月17日 (木) 21時26分

言うべきことはただ一つ。
クロ助、そこに座りなさい。そしてフェイトにナニをしたのか一言一句間違えず俺に教えなさい。その時の状況も含めて。
しかも最低だと言われて否定しないとか、どんだけ(ry

そこら辺、リリマジで是非w

投稿 天波浅葱 | 2008年4月18日 (金) 05時19分

>大坂者さん
クロノ君はエロ助へと順調に進化を遂げつつあるようです。
そして迸るリビドーを(以下略)

>ねこさん
「あ……強すぎるよ、クロノ……」
「これくらいで、ちょうど良いんだ」
 二人の息が、荒い。
「ほら、もっと強く……絞るようにするんだ……っ! ダメだ! それは強すぎる!」
 びゅーっと。
 粘性の強い白い液体だった物が泡立ち、きめの細かい表面を汚してゆく。
「あ……」
「ごめん、フェイト……大丈夫か?」
「うん……」
 自分の手にまで飛び散った白いものを、フェイトはうっとりとした表情でぺろりと舐めあげた。
「おいしい、よ?」
「まったく……」
 クロノはフェイトの手から道具を取り上げ、白いものを軽くすくった。そのまま、なめらかな表層を撫で上げるようにして白いものを塗りつけていく。その表面を覆い尽くしていこうとするかのように。

「とりあえずデコレーションはこんな物かな」
「うん、お母さんのバースデーケーキ、うまく出来たよね」

二人の共同作業はようやく完了したようです。


>クロノ君を思いきり殴りたい

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  /::::::::r─-、::::.′    <⌒`ー一' }一'‐'、イo`ヽ }
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            f´  .i、...:\   i.:.:./     ノ ̄ ̄_)/
            |   / ̄ ̄  ノ.:/   /   '´/ /
            ト、___,.-‐'´`ヽ   /    /  .′
          ヽ、         ノ、        /
                ,.-'´.:.:.:\_____.ノ
                /      _,. -‐'´

あ、こりゃ天童だw
って携帯からだと多分分からないネタでしたw;


>天波さん

上を参照。
え? 最低? リリマジ? なんのことですか?w

投稿 ちょー(管理人) | 2008年4月22日 (火) 01時28分

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